村には昼過ぎ辺りに着いた。
 スノンペーンより人口の多いスランペーンは宿屋、酒場もあり、賑やかだ。
 アッシュの勤めはここで終わりだったが今から村に戻るには時間がなく、かといって宿を取るには早すぎるため、悩んだすえルーザ宅に宿を借りる話を付けた。
「じゃぁ、また後で」
「ああ。またな」
「ありがとう、アッシュ」
「こちらこそ」
 二人と離れなんとなしにアッシュは街をぶらりと歩いた。
 のどが渇き立ち寄った酒屋で彼は不思議な話を耳にした。
「……ただの石なんだろ?」
「ああ。けどな、その石を持つと力を得られるんだぜ? 頭イカれちまうけどな」
「動物がそれを手に入れると……」
「魔物化する」
 会話をする二人の男。アッシュはその間に割って入った。
「その話、詳しく聞かせてくれないかな」
 驚く男達にエールを一つずつ頼むと、彼らは小声になりながら話始めた。
「伝説は知ってるだろ?」
「十の石を集め箱を開けると何とかって奴かい?」
「ああ。十の石を集めるべし、彼の者の魂と導きによりて箱を開かば悪しき者滅びらんとか何とかっー奴な」
「その悪しきモンっーのが目覚めたっつー話よ」
「本当か?」
「みんな口に出そうとはしねぇが、心中じゃ思っていることよ。魔の石が蔓延して魔物が増えたり、凶暴化したりしてらぁ……そいつが根拠だろうよ」
「悪しき者が箱を開けるとこの世は滅びるらしいぜ。っても、実際箱も石も有るのかすらわからねぇけどな」
「そうなのか」
「噂じゃ、この辺に一個伝説の石が眠る神殿があるって話だが、誰も見つけられないらしいぜ」
「へえ、不思議なものだね」
「それがな、金色の神殿らしいんだよ一度で良いから行ってみたいモンだぜ」
 アッシュは自分の耳を疑った。
「金色の神殿?」
「ああ。けどま、行きたくったって選ばれたものしか行けないらしい話だけどなぁ」
 金色の神殿……それはアッシュが見つけたあの神殿ではないだろうか。
 アッシュは自分の心臓が激しく脈打つのを感じた。
 まさか、いや、そうだとしたら……。
 二人に動揺していると気付かれないようにするのがやっとなくらい、彼は驚いていた。
「後、兄さんは聞いたか?」
「……な、何をだい?」
「この辺りにその神殿の石を持つ者が居るって話さ」
「噂じゃ街の商人の息子らしいぜ。家族が商談に旅に出ているコトをイイ事に、その石を使って何やら悪さしてるらしいぜ」
 一瞬自分の事を言われたと思ったアッシュは内心胸をなで下ろした。
「ふむ、それはちょっと気になるね」
「行ってみるのか?やめといた方が良いぜ?」
「ま、外から眺めてみるだけさ、家はどこだい?」
「街の中央に建つお屋敷さ、気を付けなよ?」
「ああ、ありがとう」
 アッシュは2人に追加でエールをおごると酒場を出た。
 あの二人の話が確かなら、自分はあの神殿と関わり有るかもしれない。
 商人の息子も関わっているかもしれないなら話を聞いてみたい。
 アッシュは商人の屋敷へ向かうことにした。



 その屋敷は敷地内に小さな林を抱える、この街の大きな商人の物であった。何故か門前には人だかりが出来ている。気になりかき分けて前に出ると見知った顔が目に入った。
「ルーザ! 村長!」
 屋敷の玄関前、ルーザが腕から赤い血を滲ませ辛そうに横たわっている。その父である村長が体を支えていた。
「……アッシュ!」
 村長の手招きにアッシュは急いで駆け寄った。
「どうしたんですか?ルーザは……」
「腕に深手は負っておるが大事ない。それよりも、ネル殿が奥に……」
「え!?」
 不意に腕を捕まれ、アッシュはその手の主を見た。痛みからか顔をゆがめている彼は、申し訳なさそうに呟いた。
「……アッシュ、ネルさんが……連れていかれた……。アイツ……に」
「石を持ってるっつー息子か?」
「知ってるのか……?なら話は早い……。止めようと……した、が、逆に……やられた……うっ」
 ルーザが痛そうに顔をしかめる。アッシは胸ポケットの石を取り出すとルーザの腕の上に翳した。
「つか、うな……」
 アッシュはルーザの腕に触れながら、石に力を込めた。小さな光がルーザの腕を包み込み、傷が癒えていく。
「アッシュ、それは……!?」
 村長が驚いたように呟いた。
「傷を軽くしただけです。ひどいに越したことはない、早く治療を。僕は中へ行きます」
 瞬間、立ち上がろうとしたアッシュの腕をルーザがつかんだ。
「アッシュ!危険だ!奴は……」
「知ってる、怪しげな石を持ってるんだろ?こっちだって同じさ。それよりも彼女が危ない」
「ああ……そうだな……すまない、頼む。」
「ああ、行ってくる」
 アッシュは屋敷の玄関を勢い良く開け放つと、奥へと駆け出した。
 途中、怯えた表情で座り込むメイドを見つけ話しかけると、ゆっくりと一番奥の部屋である書斎を指さした。
 部屋へ入ると、中はめちゃくちゃに荒らされていた。その突き当たり……倒された戸棚の奥に地下へ続く階段があった。駆け降りるとそこにあったモノは……。
「神殿!?」
 金色に光る壁、赤く伸びる絨毯、そして祭壇の上には……。
「ネルさん!」
「アッシュ!」
 ネルが縄で縛られ祭壇の上で寝かされていた。側には人のようで人ではない姿の……角が頭からいく本も生え、肩が盛り上がり、恐ろしい形相の“何か”がいた。
『誰ぞ、邪魔が入ったか……我の儀を邪魔するでない……!』
 人の声ではない……毒々しい声、アッシュはじわじわと祭壇に近寄った。
「何をする気だ! 彼女を放せ!」
『ならぬ、我が強大なる力を手に入れるため、この者の魂が必要……』
 化け物がゆっくりとナイフをネルへ向ける。
「アッシュ、クリスタルよ! クリスタルを壊して! お願い!!」
 ネルが刃先から逃れようと身を捩る。アッシュは化け物のすぐ後方に浮かぶ紫色の大きなクリスタルに気がついた。
「やめろ!」
 腰の短剣を引き抜き、一気に間合いを詰める。が!
『邪魔をするな……!!!』
 突如盛り上がった肩から巨大な爪が現れ、アッシュを襲った。
「くうっ!」
 アッシュは短剣でそれを受け流すと、さっと後ろに飛び退いた。
 クリスタルを破壊するには、奴の後ろへ回り込まなければならない。だが、肩から伸びる爪と、恐ろしく盛り上がった化け物の両腕がそれを阻む。
 アッシュの心の中に焦りともどかしさが溢れ出でる。そして、それが彼の隙を産んだ。
「ぐぅ!」
 奴の腕がアッシュの体を捕らえ腕にじわじわと力が込められて行くのを彼は感じた。
 肋骨が締め上げられ、口から空気が漏れていく。ぎしぎしという音は骨が悲鳴を上げる音か。
「かっはっ……」
『我に……逆らうなぁぁぁぁぁあ!』
 その時だった。胸ポケットにしまってあった石がほんのりと輝き始めた。気付いたのか、ネルが叫ぶ。
「アッシュ!ソレを使って!」
 アッシュは朦朧としていく意識の中、ポケットを見つめた。瞬間、辺りに眩しい光が溢れた。
『ぬぁああああああああ!』
 目をやられたのか“何か”が悲鳴を上げ、腕の力がゆるんだ。
 急いで、束縛から抜けたアッシュはクリスタルを手に取り、化け物に向けて光輝く衝撃派を放った。
「我が光の石の下、悪しきたる者を清めたまえ、ライトブラスト!」
 意識もしていないのに言葉が口の中から次々と発せられる。
 瞬間!大きな鈍いと共に、“何か”が壁に打ち付けられ、その後方に飛んでいたクリスタルも粉々に飛び散った。
 アッシュは、自分が今何をしたのか、なんと叫んだのか全く理解出来なかった。
 ただ、胸が苦しく、息がし辛い。
 目の前に倒れている化け物を呆然と眺めることしか、出来なかった。
【続き→】
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